明治19年10月25日 陸軍省令乙第144号 陸軍服装規則   

  • 総則
    • 陸軍軍人の服装は左の五種に区分す
      • 正装
      • 軍装
      • 礼装
      • 通常礼装
      • 略装
    • 第一・第二及び第五は将校(相当官・准士官も含有す、以下皆同じ)下士兵卒着用する所の服装とし、第三・第四は将校のみ着用する所の服装とす
    • 正装は儀式祭典など全て大礼のとき着用するものにしてその場合概ね左の如し
      • 新年
      • 三大節(新年宴会・紀元節・天長節)
      • 歳暮の参賀
      • 天機伺その他廉ありて拝謁のため参内するとき
      • 陸軍始
      • 靖国神社大祭
      • 観兵式または儀仗のため出場するとき
      • 任官叙位叙勲
      • 条例規則などに於いて明文ある場合
      • 一般大礼服着用の場合
      • 自家の賀儀葬祭(下士以下に在っては親族の賀儀葬祭にもまた之を用ゆ)
    • 軍装は将校及び下士卒に論なく概ね左に列記する場合に於いて着用するものとす
      • 戦時出兵
      • 非常出兵
      • 軍隊諸勤務
      • 衛戍勤務
      • 週番勤務(将校に限る)
      • 大演習
      • 小演習
      • 廉ある野外演習等
    • 礼装は概ね左に列記する場合に於いて着用するものとす
      • 宮中に於いて御宴に会するとき
      • 廉ありて上巻に対謁するとき
      • 夜会その他廉ある宴会などに臨むとき
      • 一般通常礼装(燕尾服を云う)着用の場合
      • 親族の賀儀葬祭
    • 通常礼装は概ね左に列記する場合に於いて着用するものとす
      • 補職または命課の辞令拝受のとき
      • 天覧の場所に臨み陪覧するとき
      • 行幸行啓等の場所へ参集するとき
      • 任官叙位叙勲の御礼およびこれに齊しき場合にて参内するとき
      • 通常の宴会に臨むとき
      • 一般「フロックコート」着用の場合
      • 一般の賀儀葬祭
    • 略装は公私の別なく平時着用する所の服装とす
    • 夏衣は炎暑の際(凡そ六月一日より九月尽日迄の間以下皆同じ)略装にのみ着用することを得るものとす。然れども平時の勤務及び演習等に在っては時宜により軍装にもまた着用することを得る。ただし夏衣を着用するときは必ず夏袴を着用するものとす
    • 夏袴は炎暑の際着用する者にしていずれの服装に在っても袴に代用することを得る
    • 外套はいずれの服装を損せず雨曇天のときまたは防寒の為室外に於いて着用するものとす。然れども軍装略装に在っては防寒の為室内に於いてもまた之を着用することを得る。ただし観兵式その他儀式の場所及び上官の居室内に在っては之を着用するを許さず
    • 雨覆は外套の上に着用することを正則とす。然れども時宜により雨覆のみを着用するも妨げなし
    • 顎紐はいずれの服装を論せず隊伍に列するときは必ず之を用いるべし。但しその他の場合に在っては各自の便宜により之を用いるものとす
    • 日覆は炎暑の際軍装略装に在って第二種帽に用いるものとす。然れども第二種帽の制なき者は第一種帽に用いることを得る
    • 勲章及び従軍記章はいずれの服装に在っても之を佩用す。然れども大勲位及び勲一等に在っては菊花大綬章または旭日大綬章は正装及び礼装にのみ佩用し軍装及び通常礼装には菊花章または旭日重光章のみを佩用すべし。ただし略装は勿論軍装といえども場合により之を佩用せざることを得る
  • 将校の服装
     其一 通則
    • 刀は将官並びに各兵佐尉官・准士官及び軍楽長これを佩用し剣は将官並びに相当官及び監督・軍吏・軍医・獣医部の上長官・士官これを佩用す
    • 将官は正装及び礼装には剣を佩用しその他の服装に在っては各自の便宜により刀あるいは剣を佩用することを得る。然れども軍隊の長たる将官はいずれの服装に在っても必ず刀を佩用すべし
    • 刀及び剣の佩用法はその正衣を着せしときは衣の上に、軍衣を着せしときは衣の下に刀(剣)帯を締め之を佩用す。しかしてその刀は室の内外を論せずいずれの場合といえども上部の環を刀帯の釣金に掛け乗馬に在ってはこれを掛けざるを法とす。ただし騎兵科将校は正衣軍衣に論なく衣の下に佩用す。また軍装略装に在って乗馬せしときはその鞍側に附着することを得る
      ◆明治24418日 陸達第60号追加
      「騎兵科将校」の下「屯田騎兵を除く」を追加
    • 正緒は正装・礼装・通常礼装着用のとき刀あるいは剣に装着す
    • 刀緒は刀に装着し剣緒は剣に装着するものにして軍装略装のときに用いる
    • 飾緒は将官並びに参謀官の佩用すべきものにして将官は正装のときに限りこれを用い、参謀官はいずれの服装にも必ず之を用いる。ただし事務執行の場合などに在っては脱除しあるも妨げなし
    • 飾緒は金線(モール)製のものを用いるは勿論なりといえども略装に在っては絹糸製(白茶色)のものを用いるも妨げなし。ただし軍装に在っても場合により本令に準ずることを得る
    • 懸章は伝令使、週番、衛戍巡察の諸将校佩用すべきものにしていずれの服装に在っても必ず之を用いるを例とす。しかしてその佩用法は右肩より左脇に斜めに掛く。ただし週番及び衛戍巡察は含む中にあるも現に勤務せざる場合(例えば週番の隊務にあらざるとき、巡察の巡察をなさざるとき云う)に在っては之を佩用せずまた伝令使は事務執行の場合等に在っては脱除しあるも妨げなし
      ◆明治21526日 陸達第123号改正
      懸章は高等官衛副官、伝令使、週番、衛戍巡察の諸将校いずれの服装を論せず之を用いるものとす。その佩用法は右肩より左脇に斜めに掛く。ただし高等官衛副官、伝令使は特に長官に随従する時、週番及び衛戍巡察は現に勤務にある時(例えば週番の隊務にあるとき、巡察の巡察をなすときを云う)の外は之を佩用せざるも妨げなし
    • 短袴はいずれの服装に在っても長靴を穿つとき着用するものとす。しかして炎暑の際は夏袴を短袴製に調製し着用するも妨げなし
    • 手套はいずれの服装を論せず白色革製のものを用いるべし
    • 下襟はいずれの服装に在っても白布製の立襟を用いるべし
    • いずれの服装を論せず短靴を穿つときは必ず留革を附着しまた乗馬本分の者は短靴長靴共に必ず拍車を附着すべし
      ◆明治21526日 陸達第123号追加
      但し第一種靴は略装に限り之を袴上に穿つも妨げなし
     其二 正装
    • 正装は左に列記するものを着装す
      • 第一種帽
      • 前立
      • 正衣
      • 肩章
      • 飾帯
      • 刀(剣)
      • 正緒
      • 手套
      • 下襟
    • この服装に在ってはいずれの場合といえども騎兵科将校は長靴を穿ちその他の者は全て短靴を雨月を法とす。ただし砲兵及び輜重兵隊附将校の隊伍に列するときは短袴長靴を穿つべし
      ◆明治23527日 陸達第105号改正
      「砲兵」の上に「野戦」の二字を追加
    • 炎暑の際は夏袴を以て袴に代用することを得るといえども室内に於いて儀式等に列するときは必ず袴を穿つべし
     其三 軍装
    • 軍装は左に列記するものを着装す
      • 軍衣
      • 刀(剣)
      • 刀緒(剣緒)
      • 手套
      • 下襟
    • 帽は第一種帽を着するを正則とす。然れども時宜により第二種帽を用いることを得る
    • この服装に在っては乗馬本分の者は必ず短袴長靴を穿ちその他の者は短靴を穿ち脚絆を着ししかして乗馬本分にあらざる隊附尉官は背嚢を負うを法とす。ただし週番及び衛戍巡察等の如きは時宜により脚絆を着せず背嚢を負わざるも妨げなし
    • 背嚢を負う者は之に雨覆または夏外套を附着す。之を負わざる者は雨覆または夏外套を巻き左肩より右脇に斜めに掛けるを法とす。ただし時宜により之を背嚢に附着せずまた肩に掛けざるも妨げなし
     其四 礼装
    • 礼装は左に列記するものを着装す
      • 第一種帽
      • 正衣
      • 肩章
      • 刀(剣)
      • 正緒
      • 手套
      • 下襟
    • この服装に在っては騎兵科将校は長靴を穿ちその他は全て短靴を穿つを法とす
     其五 通常礼装
    • 通常礼装は左に列記するものを着装す
      • 軍衣
      • 刀(剣)
      • 正緒
      • 手套
      • 下襟
    • 帽は第一種帽を用いるを正則とす。然れども時宜により第二種帽を用いることを得る
    • この服装に在っては騎兵科将校は長靴を穿ちその他は全て短靴を穿つを例とす。然れども乗馬本分の将校(騎兵科を除く)にして乗馬せしままその場に臨む場合に在っては各自の便宜により短袴長靴を穿つも妨げなし
     其六 略装
    • 略装の着装は概ね通常礼装と同一とす。ただし帽は第一種・第二種に論なく之を用いることを得る。また刀(剣)に正緒を装着せず刀(剣)緒を装着するを異なりとす
    • この服装に在っては靴は短靴または長靴を穿ちあるいは脚絆を着しまたは着せざる等全て各自の適宜に任す
    • 騎兵科将校はいずれの服装に在っても袴(騎兵科の袴)を用いるは勿論なりといえどもこの服装に在っては隊外服務の者は他兵科の袴と同製のものにして地茜色・側章萌黄色の袴を用いることを得る。ただし隊附将校といえども隊務にあらざるときは之を用いるも妨げなし
      ◆明治24418日 陸達第60号追加
      「地茜色」の下「屯田騎兵に在っては藍霜降色」を追加
    • 騎兵科将校はこの服装に在っては刀帯の釣鎖を釣革に換え用いることを得る
  • 下士卒の服装
     其一 通則
    • 刀、剣、砲兵刀、徒卒刀の佩用法はいずれの服装を論せず衣の上に革帯を締め之を佩る。然れども騎兵に在っては必ず衣の下に之を佩るものとす。また外套を着するときは憲兵・歩兵(屯田兵も含有す以下皆同じ)・砲兵・工兵に在っては外套の上に佩用し、その他は外套の下に佩用す。しかして刀を佩る者は革帯を外套の下に締め刀の柄を左側の裂目より出し、乗馬にて隊伍に列するときはその釣革を左側の裂目より出し刀を外部に出すべし。ただし曹長(憲兵を除く)はいずれの兵種を論せず背嚢を負わざる場合に在っては皆外套の下に佩用す
      ◆明治24418日 陸達第60号追加
      「騎兵」の下「屯田騎兵を除く」を加え「歩兵」の下「屯田兵も含有す以下皆同じ」を削除
    • 手套はその給与ある者はいずれの服装に在っても之を用いるは勿論なりといえどもその給与なき者に在っても隊伍に列せざるときは之を用いるに妨げなし
    • 下襟はいずれの服装に在っても白襟布を衣の襟幅よりやや広く折り之を首に巻くべし
    • 小倉衣袴は兵卒平常屯営内に在るとき及び練兵等をなすときのみ着用するものとす
    • 兵卒屯営内に在るとき及び練兵をなすときは前条に掲げる如く小倉衣袴を着用すべしといえども時宜により之を要するときは隊長の存意を以て絨衣袴を着用せしむることを得る。然るときは肩章は騎兵に在っては之を除去しその他に在っては釦を外し之を巻き置くも妨げなし
      ◆明治24418日 陸達第60号追加
      「騎兵」の下「屯田騎兵を除く」を追加
     其二 正装
    • 正装は兵種により区別ありといえども全て一般に着装するもの概ね左の如し
      • 第一種帽
        ◆明治232月6日 陸達第16号改正
        但し対馬警備隊に在っては当分の内第二種帽を用いる
        ◆明治23823日 陸達第170号改正
        「対馬警備隊」の下に「及び輜重輸卒」追加
        ◆明治24418日 陸達第60号追加
        「対馬警備隊」の下「屯田各兵」を加える
      • 前立
      • 衣袴
      • 下襟
    • 各兵種により区別ある者左の如し
      • 曹長はその兵種の如何を問わず皆刀を佩び、歩兵・工兵に在っては短靴を穿ち脚絆を袴下に着し、騎兵に在っては長靴を穿ち、憲兵・砲兵及び輜重兵に在っては半長靴を袴上に穿つ
      • 憲兵曹長・一二等軍曹及び兵卒は刀を佩び拳銃を携帯し半長靴を袴上に穿つ
      • 歩兵・工兵一二等軍曹及び兵卒は革帯を締め銃剣を佩び短靴を穿ち脚絆を袴下に着す。しかして隊伍に列する者は背嚢を負い(負革を肩章の下に着す)弾薬盒を附着し銃を携持す。ただし背嚢には外套を蹄鉄状に附着し、しかして工兵及び鍬兵はその工具を束装す
      • 騎兵一二等軍曹及び兵卒は刀を佩び長靴を穿つ。しかして隊伍に列する者は槍または銃を携持す(銃を携持する者は弾薬盒を附着す)
      • 砲兵一二等軍曹及び兵卒は砲兵刀を佩び半長靴を袴上に穿つ。しかして隊伍に列するとき徒歩の者は背嚢を負い外套を蹄鉄状に附着す
      • 輜重兵一二等軍曹及び兵卒は刀を佩び半長靴を袴上に穿つ。しかして一二等卒の隊伍に列する者は弾薬盒を附着し銃を携持す
      • 軍吏部・軍医部及び軍楽部の下士卒は全て徒卒刀を佩び短靴を穿ち脚絆を袴下に着す
      • 砲工兵監護及び騎砲兵諸工長・同下長並びに同諸工もまた前項と同一とす。ただし隊附砲兵火工長・同下長に在っては砲兵下士と同一とす
      ◆明治232月6日 陸達第16号改正
      第三項三行「背嚢」の下に「対馬警備隊歩兵隊に在っては背負袋」、第五項「但し対馬警備隊砲兵隊一二等軍装及び兵卒に在っては銃剣(助卒は徒卒刀)を佩び短靴を穿ち脚絆を袴下に着し、隊伍に列するときは背負袋を負い弾薬盒(助卒を除く)を附着し銃(助卒を除く)を携持す」を追加
      ◆明治23527日 陸達第105号改正
      第一項~第三項中「歩兵」の下に「要塞砲兵」を加え、第一項~第五項中「砲兵」の上に「野戦」の二字を加える
      第八項を削除し次の三項を加える
      • 砲工兵監護並びに諸工長・同下長及び同諸工もまた前項に同じ。ただし野戦砲兵隊附砲兵監護及び同諸工長・同下長に在っては徒卒等に代わるに砲兵刀を以てす
      • 騎兵・砲兵・輜重兵蹄鉄工長・同下長は全て当該兵科の下士に同じ
      • 隊附砲兵火工長・同下長は当該隊附下士に同じ
      ◆明治24418日 陸達第60号改正
      第六項中「一二等卒」を「兵卒」に改める
      第六項の次に左項を追加
      • 陸軍屯田歩兵・同工兵下士兵卒は陸軍歩兵同工兵下士卒に同じく、陸軍屯田騎兵下士兵卒は短靴に脚絆を穿つの外陸軍騎兵下士兵卒に同じく、屯田砲兵曹長は要塞砲兵曹長に同じく、屯田砲兵一二等軍曹及び兵卒は短靴を穿ち脚絆を袴下に着するの外野戦砲兵一二等軍曹及び兵卒に同じく、屯田砲兵火工曹長・同一二等軍曹・同諸工長・同下長は屯田砲兵下士に同じ
      ◆明治261216日 陸達第92号改正
      第一項中「曹長」に下に「憲兵を除く」を加え「憲兵」の二字を削る
      第二項を左項に改める
      • 憲兵曹長一二等軍曹及び上等兵は刀を佩び半長靴を袴上に穿ち警察勤務に服するときは拳銃を携帯す
      第五項中「背嚢を負い」の下に「場合により背嚢及び外套を前車に附着す」を加える
     其三 軍装
    • 軍装は概ね第四十八条・第四十九条に掲げる正装の着装と同一とす。但し左に掲げるものを取捨するを異なりとす
      • 前立てを装せず、また時宜により第二種帽を用いることを得る
      • 水筒を携帯す
      • 徒歩にして隊附の者は全て背嚢を負う。ただし第四条第一・第二の場合に在っては隊外の者に在ってもまた同じ
      • 背嚢を負う者は之に飯盒及び予備靴を附着す。また時宜により毛布を附着することあり
      • 脚絆を着するものは之を袴上にす
      ◆明治2326日 陸達第16号追加
      • 対馬警備隊に在っては外套を巻き左肩より右脇に掛けしめ山足袋を穿ち木綿脚絆を着せしむることあり
      ◆明治23527日 陸達第105号改正
      第三項但し書きの上に「縫工長・靴工長並びに砲兵隊付監護及び騎兵砲兵隊付諸工長・同下長は除く」を加える
      ◆明治24418日 陸達第60号追加
      • 屯田歩兵砲兵工兵に在っては靴に代わるに草履を用いることあり
      ◆明治24831日 陸達第126号追加
      • 配達卒の軍装は輜重兵の軍装に同じ
      • 糧倉卒、炊卒、従卒、馬卒の軍装は輜重輸卒の軍装に同じ
     其四 略装
    • 略装の着装は概ね軍装に同じ。ただ帽は第二種帽に限り之を用いるを異なりとす。但し第二種帽の制なきものはこの限りにあらず
    • この服装に在っては第五十条第二項乃至第五項に掲げるものを適用せず。また隊外奉職の者は各自の便宜により脚絆を附着せざる等適宜に之を取捨することを得る